ラウ・ル・クルーゼ|人類滅亡を願う心の底にあるもの

Raww-Le-Klueze

機動戦士ガンダムSEEDに登場する仮面のキャラクター、ラウ・ル・クルーゼの紹介です。

この人物には、現実社会が抱える人間の欲やエゴ、生命倫理に関する課題が詰め込まれています。

−以下、ネタバレが含まれます−

ガンダムSEEDは数々のシーンに初代ガンダムのオマージュが散りばめられています。

仮面のキャラクターは多くのシリーズで登場しますが、クルーゼは初代ガンダムで言うところのシャア・アズナブルに立ち位置が似ています。

似ていると言ってもそれはほんの一部の側面であって、役割や立ち回りなどは全く別物なのですが。

ただ、軍の中でトップの右腕になる立場に身を置き、軍の目的とは別に野望を持ち、金髪で素顔を隠しているのは共通です。

解説の前に。

ガンダムSEEDの続編、SEED destinyより、彼の回想シーン抜粋動画です。

何となくでもキャラクターの雰囲気が感じ取れます。

目次

驚きのキャラクター設定

ガンダムSEEDはガンダム作品の中では唯一、人為的に遺伝子改変を受けた種族(コーディネーター)が登場します。

現代の科学技術ではそこまで正確なデザインは出来ませんが、動物モデルでは意図した形質(表現系、見た目や特性など)を的確に再現することが出来ています。

本作に登場するコーディネーターは、遺伝子改変により肉体的にも頭脳的にも強化された人類です。

Zガンダム等で登場する強化人間とは異なり、生まれながらにして強化された人間ということです。

人為的な遺伝子改変を受けていない人類を、コーディネーターと区別する語としてナチュラルと呼びます。

クルーゼはナチュラルですが、特殊な能力(兵器としてのニュータイプ的な側面)を持ち、そのこともあってコーディネーター側に所属していながら怪しまれることもなく士官を努めています。

何のために、どんな背景でそのような立場に身を置いているのか、物語の裏で一体どれだけ暗躍していたのか、中盤までほとんど描かれません。

彼の正体に物語の途中で気付ける人はそうはいないと思います。

ガンダムSEED第45話『開く扉』で彼の口から語られる数々の真実には、まさに現代社会が抱える科学と倫理の課題が詰め込まれています。

彼は、物語の中で宿敵として描かれるムウ・ラ・フラガの父親、アル・ダ・フラガのクローンだったのです。

本作の随所でクルーゼが何らかの薬物を摂取し、それが無いと重大な身体的不調を来たすことが描かれます。

これはクローンであるがためにテロメアが生まれながらにして短く短命であることに起因しており、実際のクローン動物が早老以外に彼のような症状を呈する事は一般的では無いかもしれませんが、彼の苦しみはそのイメージが描かれているものです。

クローンと聞いて、奇抜な設定だなぁ、と思うかもしれませんが、ちょっと想像してみて下さい。

あなたが物心付いた頃、ほぼ同い年の兄弟がいて、ある日その弟(兄)は普通に生まれた子であるのに対し、自分はクローンだった事を知ったらどう感じるでしょうか。

しかも失敗作でテロメアが短く、極めて短命であることを知ったら。

父も母もいない、人工的に生み出された失敗作のクローン。

一生経験する事はないので想像するのも難しいですが、恐らくアイデンティティは崩壊し、自分自身の存在意義に疑問を持つ事でしょう。

そんなクローンの目に、自分自身を生み出した人類社会はどのように映るのでしょうか。。。

クルーゼは何を望むのか

人類の滅亡・・・一方で、理性と理想も。

  • 優生思想の是非
  • 人類の進化を望む科学者
  • エゴに塗れた強欲な資産家
  • 研究費獲得に悩む研究者
  • そして倫理的に禁断のクローン技術

その結果、生み出されたクローン人間である自分を知り、そんな世界を呪うかのように世界の破滅を計画します。

作者の込めた想いには、それでもなお幸せを願う心も持ち合わせていたものの、しかしそれをかき消すほどの『失敗作』という絶望的なシチュエーションは想像に余りあります。

恐らく人類史上、これと同じ絶対的で理不尽な絶望を突き付けられた人はいないはずです。

その結果、彼は作中でナチュラル、コーディネーター両陣営の背後で、戦争を激化し、滅亡的な兵器を使用するように仕向けていきます。

そして最後に、核戦争の引き金を人類に“引かせる”ことになります。

ガンダムSEEDの世界は核戦争を抑止するためにニュートロンジャマーと呼ばれる核反応を阻害するテクノロジーが世界を覆っています。

しかしその機能を回避するニュートロンジャマーキャンセラーの技術情報を、遺伝子改変人類であるコーディネーターを忌み嫌う過激派の手に渡すことで。

もうどうなっても良い、自分のような存在を生み出すような人類社会など、滅ぶべくして滅ぶならそうなれば良い。

そんな彼の想いが、最終話で繰り広げられる戦いの中で発せられます。

もし私が彼の立場だったらどう考え、どう行動したでしょうか。

時代背景にもよるでしょうが、もし戦乱の中に身を置いていたとしたら自暴自棄になるかもしれません。

他人を巻き込んでも構わない、核戦争が起きたって構わない。

どうせ自分は親も兄弟もいない孤独な出来損ないのクローン人間です。

戦争に勝とうが負けようが知ったことではない。

戦争の先に待っている平和など自分とは無縁。

そんな心境の人間が1人いるだけで、これほどまでに凄惨な展開になってしまう恐ろしさを感じます。

だからこそ、技術はそれを扱う人間の精神の成長と歩調を合わせる必要があるのだと強く感じさせてくれるキャラクターです。

クルーゼが実際にいたら

クローン人間の誕生を支えることの出来る技術は既に今の人類も持ち合わせており、可能ならばと願う気持ちは恐らく世界中にあることでしょう。

命すら金で買えると思い上がった愚か者とは、現実に存在し得るのです。

そしてクローン技術でヒトをも生み出せる技術は既にあり、さらに人工的に遺伝子改変された子供も実は誕生しています。

遺伝子改変を受け、人工的に生み出されたとしてもそれが『失敗作でなければ』人格崩壊は免れるかもしれません。

ガンダムSEEDの主人公キラ・ヤマトのように、運命を受け入れ、前向きになれるかもしれません。

しかし現在の技術はそこまでは到達していません。

近づいてはいますが、もし試験的に実施して失敗した場合にはリカバリーの術がありません。

いつかは人類が本当に手を出す日が来る気がしますが、まだ手に負える代物ではないのです。

本作のような悲劇が生まれないよう、遺伝子改変技術だけではなくあらゆる科学技術が最新の注意を払わなければならないと思います。

最後に

ラウ・ル・クルーゼの最期。

キラ・ヤマトとの応酬の中に彼の想いが交錯します。

彼の最後の搭乗機、プロヴィデンス

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